東京大学医学部附属病院 神経内科 准教授 郭 伸
ALSの原因は不明であるとよく言われますが、この表現はやや言葉足らずであり、ALSの原因を究明するための研究は目覚しい進歩を遂げています。その結果、発症に関係する遺伝子異常や、細胞死の過程で引き起こされる特異的な分子変化などの、現象的な知識はかなり蓄積してきています。
ただ、観察された異常な現象がALSの運動ニューロン死を引き起こす直接の原因を反映しているかどうか(二次的に引き起こされた反応ではないか)、責任遺伝子の変異がどういうメカニズムで細胞死を引き起こすのか、など、本質的な理解に繋がる疑問に答えられるだけの知見が不十分である、したがって有効な治療法が得られていない、というのが実状です。
しかし、原因が明らかで、しかも発病に至る詳細な分子メカニズムの全てが解明されている疾患などはなく、病気そのものの根治に繋がる治療法がある疾患は数えるほどに過ぎません。ALSは、筋肉を動かす神経細胞の変性の速度が速く、筋力を一時的に増強する方法では効果が上がらないため、治療のためには神経細胞の変性自体を止める方法を開発しなければならない点で、治療へのハードルが高いといえます。
また、変性の進行速度を多少遅くする方法があったとしても症状は進行するので、治療効果がなかなかみえにくい点も治療法として認められるためのハードルを高くしています。したがって、他の疾患に比べても病気の原因を解明する必要性が高いのです。
ALSは運動ニューロンが変性・脱落することで診断されるので、運動ニューロンが変性するメカニズムが単一でなければ病因も1つとは限りません。実際にさまざまな仮説が提唱されていますし、ALSの発症に関わる遺伝子も複数が同定されています。
そうした仮説のなかで、ALSの病態、すなわち、患者の臨床像の特徴(1)、顕微鏡で見た患者運動ニューロンの病理像の特徴(2)、患者運動ニューロンの疾患特異的な分子異常(3)、を最もよく説明できる仮説ほど、真の病因に近いと考えられます。
- (1)
- 経過:進行性である。そのスピードは月単位で測れるほど速いことが多い。
病変の選択性:随意的運動機能の低下であり、感覚・自律機能は侵されない。最初に侵される随意筋の部位はさまざまなため病型は多彩だが、病期の進行とともに全身に広がる。ただし外眼筋は侵されにくい。 - (2)
- 運動ニューロンに選択的な病理変化:変性・脱落がある。特異的な封入体(ブニナ小体など)が出現する。
- (3)
- 大多数のALS運動ニューロンにみられる分子変化(後述):グルタミン酸受容体の分子異常、特定の蛋白(TDP-43)の断片化、リン酸化、凝集(FUS/TLS蛋白の凝集も頻度が高い)、など。

