より良いケアをめざして

帝京大学ちば総合医療センター看護部・訪問看護ケアセンターの取り組み

監修:帝京大学ちば総合医療センター 神経内科 教授 尾野精一

患者さんとのコミュニケーション

わずかな表情の変化も見逃さない、あきらめずに患者さんの意思をくみ取る

 ALSでは疾患の進行とともに動かすことのできる筋肉が制限され、また、個々の患者さんで進行の速さも異なるため、コミュニケーション障害への対応は一様ではありません。発症当初には会話が可能であった患者さんも徐々に筋肉が弱まり、話しにくい、声が出にくいなどの症状が現れると、コミュニケーションツールを用いたサポートが不可欠になります。こうしたツールの使用のために、患者さんは使いこなす技術を身に付ける必要がありますが、その習得には時間を要します。そのため患者さんの状態を見極めながら、先を見越したツールの選択や患者さんへの説明を心がけています。また患者さんの意思を受け取る側も技術を要するため、新人の看護師や一緒にケアに携わるヘルパーは技術習得を含めたコミュニケーションスキルの向上に努めています。ときには、文字盤などを家に持ち帰り、自習する場合もあります。患者さんにとって自分の意思が伝わらないことは非常にストレスであり、その状況が長く続けば患者さんは徐々に心を閉ざしてしまいます。そのことを1人ひとりの看護師が十分に理解し、患者さんに寄り添いながら丁寧に意思をくみ取るよう心がけています。

 それでは症状が高度に進行し、コミュニケーションがさらに限られてきたとき、どのように対応すればよいのでしょうか。そのポイントは、わずかな視線の動きや表情の変化を見逃さないことです。例えば、患者さんは頬や眉の動きで意思を伝えていたり、視線を文字盤の方向へ動かし何かを伝えようとします。これらの変化に気がつくためには、日常の訪問看護における注意深い観察が必要です。また介護している家族に話を聞いたり、ケアに携わるチームで患者さんの細かな情報を共有化することで気づくことも多くあります。「ALSでは麻痺が進行すると表情そのものが作れなくなるため、変化に気がつくことは非常に困難です。しかし、日頃から患者さんをよく観察し、わずかな動きにも敏感になることがコミュニケーションには必要であり、信頼関係の構築にもつながります」と尾野教授は強調しています。訪問看護におけるコミュニケーションは、看護技術だけでなく、ほんのわずかな変化やサインも見逃さないという看護師の熱意によって支えられている部分も大きいと言えます。