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オンライン患者コミュニティーPatientsLikeMeによる個人健康情報の社会的利用

Social uses of personal health information within PatientsLikeMe, an online patient community: what can happen when patients have access to one another’s data
Frost JH, Massagli MP
J Med Internet Res, 2008;10 (3), e15.


抄録・解説 LTTプログラム委員 郭 伸先生

要旨

背景:
  個人健康情報を得たいという患者の強い要求が高まっているので、そのためのモデルとして、すべての健康情報を登録し、患者や介護者が自分の病気に関連した情報を閲覧できるようにすることで、個人健康情報の共有が患者にどう影響するかを検討する。このような記録は、患者-医師間の関係のためには有益であるようにみえるが、個人健康情報の本来の受益者である患者への有用性についての研究は無い。

目的:
  PatientsLikeMeは患者同士の情報交換を目的としたオンラインコミュニティーであり、疾患の理解を助け、患者同士の病態情報を交換する画像化ツールである。ここではオンラインコミュニティーの構成・規格を述べ、患者同士の交信でどのように個人健康情報が利用されているかを分析する。

方法:
  ALSと診断された患者が現在の治療法、症状、効果を登録する。そのデータは個人健康プロフィールとしてグラフに表示され、コミュニティーレベルのデータに反映される。ユーザーは、フォーラム内のデータ、私的メッセージ、お互いのプロフィールに書き込まれたコメントを見て意見を交換する。このような患者間コミュニケーションの中から、いかに個人レベルでの健康情報を利用するかを評価する。

結論:
  このプロジェクトは、健康情報の共有が患者の助けになり、病気への対処の仕方の意見交換の場を与えるという意味がある。将来的には、個々の患者の健康情報をできるだけ明確なものにし、同様の状態にあり同じような治療を受けている患者同士を自動的にマッチングし、健康に関する意見交換のオンラインプラットフォームをより充実させることを勧める。

緒言

 個人健康情報データシステムは様々なものがあり、最も重要なものは、臨床の場で得られる“すべての“健康情報(病歴、診断、アレルギー情報、現在の治療)を中央保管し、患者とその介護者にのみ開示するという方法である。

 このような情報データベースが患者-医師間のコミュニケーションや信頼関係に良い影響を持つことは知られているが、患者にとって有効かどうかは調べられていない。膨大な単なる医療情報を提示しても、患者のみならず医師にとっても利用することはできない。医療情報ワーキンググループは、理想的な個人健康情報記録は単なる患者の医療記録ではなく、患者が自分のケアに積極的に取り組めるように、データ、知識、ソフトウェアを組み合わせたものであるべき、と主張した。

 PatientsLikeMeはこのような目的で作られ、第一に、適切なツールがあれば患者は個人健康情報の画面を見て学習することができるであろう、との考えに基づいている。これはヘルスケアのなかで、患者自身のデータを集め、分析し、説明することで、患者に日々の生活行動が健康にいかに影響するかを認識させることができるという”imagery as data”の仕事に基づいている。第二に、個人情報を交換し意見を交換することで参加者がデータをより有効に活用することができる。個人健康情報を利用しない場合は、患者の知識、意見交換、健康増進利用に役立つことがわかっている。

 ここでは比較的稀な不治の病であるALSに罹患した患者に対象を絞る。そのような患者のほうが、個人健康情報が有益であろうし、移動能力の低下で対面での意見交換が難しいという理由による。有効な治療法が無く、患者および介護者は、胃管チューブ、胃瘻、呼吸器などを使うか使わないか、使うとしたらいつ行うか、等の決定をしなければならない。データの交換により参加者が、このような決定や、日々の介護についていかにインパクトを得ているかを観察する。第一の疑問は、患者が治療や医療経験について特定の患者との交流で、画像化した健康情報をいかに利用するかということである。また、個人健康情報が得られることにより発生する意見交換の内容にどのような変化が生ずるかも知りたい。このような意見交換が有効に機能するためには、データから有効な結論が引き出せることと同時に、快適に情報交換ができることが必要である。

Platform

 PatientsLikeMe ALS communityは2006年3月に公開された。担当医や他の患者から推薦された患者、患者ブログやサーチエンジンでの参加者からなる。1年半後には1,570名の患者が参加し、そのうち1,140名は米国在住である。これは米国のALS患者全数の4%に相当する。

個人情報

 PatientsLikeMeでは、個々の患者が各人の個人データをフォーマットに従い、または自由入力により登録し、それが個人の病歴データとしてサイト上に掲載される。プロフィールには患者の現在の健康状態として障害のある部位を示すイラスト、顔写真、自叙伝的記載、病歴、これまでの交信記録が載る。個人健康情報の要約(”nugget” summary)として、診断名(ALS)と現在の障害の身体部位とその程度を色彩で表した人形図、発病からの年月、現在使用中の補助具・補装具のイラスト、このサイトの利用度を示す星(数が多いほど利用度が高い)がパネルに記載される。サイトの開始日、最後の利用日も同時に記載される。このように視覚的な画像により健康情報を提示することで、文字による方法に比べよりアクセスしやすい環境を作っている。ALSサイトのPrimary chartは個人の経時的な障害度を示す折れ線グラフが、全患者の経過から作られた経過図の上に乗っており、自分の進行度が患者全体の中で速いほうなのか平均的な経過なのかが分かるようにグラフ化されている。機能障害の程度は改訂版ALS機能評価スケール(ALS Functional Rating Scale)のスコアが用いられている。そのグラフの下には修正Gantt図により施された治療法、経験した徴候がその時期を示す棒として示されている。頻度の高い徴候や治療法はデフォルトとして組み込まれているがユーザーは自由に付け加えることができる。このグラフ化により情報へのアクセスがより容易になり、患者自身にとっても病状の把握と治療効果の判定に役立つほか、他のユーザーにとっても有用な情報源となる。

Aggregate Resources

 コミュニティーメンバー全員からのデータは疾患における治療・症状のデータとなる。治療情報は標準的な治療法の記載のほか、コミュニティーレベルで集められたデータ(薬用量の範囲、服用時間、治療開始・中止の患者の個人的理由など)、治療に対する参加者の意見を述べるフォーラムを含む。症候情報も同様に、それぞれの症候のコミュニティー全体での発症頻度と重症度、治療法が含まれる。それぞれの項目は、関連項目、例えば、同じ理由で治療を受けている患者、同じ薬を同量服用している患者、同じ問題を扱うフォーラムなどの関連サイトにリンクしている。

Social Tools

 メンバーは検索機能やブラウズ機能を使うことで、類似した患者、同様の治療経験のある患者のサイトを見ることができる。Forum、private messageや他人のサイトへの書き込み(Comments)などによりプロフィールの交信ばかりでなく健康上の心配についても相談することができる。Forumは参加者全員が、さまざまな疑問を提示したり、研究情報、症状への対処法、などについて意見交換する場である。Private messageはサイトを使った電子メイルであり、他のメンバーやサイトの管理者に読まれることはない。Commentsは他人のプロフィールへの書き込みであり、参加者全てがみることができ、削除することもできる。記載ごとに各人のNuggetに記録される。

Data Selection

 個人健康情報は、自分について(about me:年齢、住所、病歴)、自己紹介、機能障害度、治療、症状、の5つのカテゴリーからなる。ユーザーは、上記のForum, private message, commentsのいずれかの方法により交信する。
 この調査では、他人の個人レベルでの健康情報に関連した交信を対象とした。このようなデータは、サイト上プロフィールに載っている。他人の個人的体験についての意見交換用にデザインされていないForumへの書き込み、アクセスできないPrivate messageは解析対象から外した。したがって、個人のプロフィールサイトに残されたコメントを解析対象とした。

Sampling

 2006年12月から2008年2月の間に、ALSコミュニティーでは17,059件のcommentsが他人のプロフィールに書き込まれた。半数以上はワンクリックで送ることができる「貴方のプロフィールを埋めてくれてありがとう」などの定型文であった。現在7,852がユーザーの書き込みに依るのでこれを解析対象とした。63%(1570人中986人)の患者が少なくとも一度の書き込みをしていた。500のサンプルデータの解析からは30%に相手に対する返信を示唆するいくつかの共通したキーワードがみられ、これを含む交信が他人への返信かどうかを全てのCommentsにつき解析した。匿名化のため、年齢などの情報は変更してある。これらのキーワードから始まる交信が何回の交信によるものかを追跡した。

結果

 キーワードに合致した投稿は、95名の参加による123本であった。治療に関するもの(29本、23%)が、症候や結果に関するもの(9本、7%)より多かった。ほぼ半数(56本、45.5%)が1個以上の質問を含み、その半分はアドバイスを求めるものであった(34本、28%)。  1) 関連した経験に関する質問、2) アドバイスや推薦、3) 類似性による交流開始・強化、に関するものが典型的な3分野であった。  1) に関して、新規の治療法(例:生姜の根の有効性、経鼻胃管、BiPAP)。他の参加者のサイトの紹介もある  2) 自分の経験した薬剤の推薦(不安に対するDextromethorphan、quinidine)  3) 31本、25%が所持品、趣味、意見、疑問の一致した相手との関係を作っている。例:発症時期、障害部位、重症度の一致。31本のうち18本は地域、雇用履歴、星座、趣味などの非医学的なもの。  意見交換;2人59本、48%、新たな交換64本、52%(36本、56%が1つ以上の返事をもらい、その半数以上の20本が公開している)。
1)
関連した経験に関する質問、2) アドバイスや推薦、3) 類似性による交流開始・強化、に関するものが典型的な3分野であった。
1)
に関して、新規の治療法(例:生姜の根の有効性、経鼻胃管、BiPAP)。他の参加者のサイトの紹介もある。
2)
自分の経験した薬剤の推薦(不安に対するDextromethorphan、quinidine)
3)
31本、25%が所持品、趣味、意見、疑問の一致した相手との関係を作っている。例:発症時期、障害部位、重症度の一致。31本のうち18本は地域、雇用履歴、星座、趣味などの非医学的なもの。
 意見交換;2人59本、48%、新たな交換64本、52%(36本、56%が1つ以上の返事をもらい、その半数以上の20本が公開している)。

考察

 自分の健康データを得たいという患者の要求は増しているが、それが公開されたときに同病の他の患者がそのデータをどう利用するかについての情報はあまりなかった。この研究では、主要なデータを標準化した画像により、患者がお互いの健康情報を共有できるようにした。このような条件下で患者がとる社会的行動をみることにより、他人の個人健康情報に接することで患者がどのように情報を使うかということの感触を得た。

 このオンラインコミュニティーで分析したユーザーのコメント数は少数ではあるが、ユーザーは掲載された他人の医学情報をよく利用し、治療の判断や症候のコントロールなどの健康に関連した問題の決定について意見交換を活発に行なっていることが明らかになった。とくに、特定の経験についてのアドバイスを求める、特定の症状や健康問題についてアドバイスする、共通点を基にした交流を育む、という3点についての意見交換が最も多いことが分かった。このコンピューターサイトは、同じ疾患の患者であることに特化した類似性に基づくものなので、自分と同様の状況に置かれた他の患者へ助言を与えることや健康情報を共有することにより、医療に有益に働いている。サンプル数は少ないが、この研究で扱ったコメントは参加者すべての健康情報を開示し、患者の健康情報を共有することが有用であることを示している。

 この研究は、個人健康情報データの新たな利用法である医療情報の共有利用の有用性に関する最初のものである。我々は、一定の基準に沿って他人の健康データに関するコメントを抽出した。解析対象が少数であるため、すべてのデータに関する解析でどういう結果が出るかはわからない。例えば、データは患者の病歴を明らかにし、それによりフォーラムの意見交換を促進するかもしれない。他人のプロフィールを知ることで、病気と共に生きる孤立感を軽減するかもしれないし、自分と同じ病気にかかった患者と比較することで自分の経験がどういう意味をもつのかを理解するのに役立つこともあろう。将来的にはインタビューやアンケート調査によりこれらの可能性をより明確に検討するとともに、我々が分析できたコメントがほんの一部に過ぎないことの理由を明らかにする必要がある。キーワードに基づいた探索から漏れた関連のコメントが多数あるに違いない。したがって、この調査の対象になったものはすべてのサンプルデータを反映していない可能性がある。また、意見交換はユーザーがこのサイトを利用する方法のほんの一部に過ぎない可能性があり、そのような場合、サイトのデザインのいかんによって書き込み数が大きく影響を受ける。メンバーはマウスをクリックすることで他のメンバーに自分のデータにアクセスしてくれた返事を書くことができるが、約半数のコメントはこのような規格のコメントではなく白紙に書かれているので、メンバーが他人の情報をどう使うかはデザイン次第であろう。

 データの開示により多数の反応があったことは、データにアクセスした患者同士の交流を促進するようなサイトのデザイン改革が必要であることを示唆する。現在は治療、症状、病歴、公開のコメントや私的なメッセージのカテゴリーに分かれているが、将来は、画面のクリックだけで、ある経験についての他のユーザーのコメントを求めるようなシステム、健康状態を説明するための画像技術の促進、患者の様々な特性に対する探索法の開発、ある患者の特定の健康状態に対するコメント機能などを含む必要がある。ある特定のコメントでも、より多くの聴衆に有益なことがあることもわかったので、他人へのコメントをファイル化し、簡単に検索し利用できるための機能も付け加えるべきであろう。

コメント

 医療情報を公開して医療レベルを標準化する試みは、エビデンスに基づくデータから導き出された疾患に対するガイドラインとして、医療者側に有効に利用されてきている。一方、患者が病気の情報を得る方法として、従来の医療機関受診による主治医の説明、家庭医学書の他、最近ではインターネットを通じた情報収集が用いられるようになってきているが、情報提供者は主として医療従事者である。この論文では、患者同士の情報交換の有用性を検討したものであり、ある限られた期間に、設定したキーワードに合致した意見交換にはどのようなものがあったのかを調べたもので、その有用性、改良点を述べ、この方法が有用であり、進めるべきであるという方向性で考察している。

 インターネットサイトを通じた患者間での意見交換は、症状や治療法についての情報交換や人間的なつながりを求める目的で使われている。ある病気に罹患するという経験はほとんどの患者にとり初めてであり、病状のみならず生活の先行きの不安は大きい。とくに、その疾患が治療効果不十分で、しかも進行性である場合にはその不安はより一層大きくなる。ALSのような、亜急性に進行し、死に至る病である場合には顕著である。同じような病状の他の患者から健康情報を得、他者の経験を知ることは、このような不安や孤立感を軽減し、病状・疾患の理解のためにも有用であろう。ある疾患の患者サイトがあればそのようなつながりを見つけられる可能性も高くなろう。

 ただし、問題がないわけではない。医療情報に関する意見交換は、実際にある治療法をとったときに有効だったか、不具合はなかったか、という患者自身の経験の共有に役立つ可能性が高い。ただし、患者同士で効いた、効かないというレベルでの情報は、しばしば治療効果に関する医学的評価と一致しないことは、よく経験するところである。診断、治療根拠、処方の目指すところなどが、必ずしも正確に患者に伝わっているわけではない事例を多く目にするだけに、ある治療法を受けた経験の共有というレベルに止め、治療の有効性を含めた適否については、医師による情報の整理、修正が必要不可欠であろう。

 社会的な情報処理の問題もある。善意による運用で、実際にある疾患に関わる人たちに限られた開示であれば問題は少ないかもしれないが、個人情報を不特定多数に開示することで、悪用される危険性と常に隣り合わせになることを認識しておく必要があるのではないだろうか。特に生命予後に関係する疾患については、生命保険その他の、商業的に価値のある情報として別の使われ方をする可能性がある。インターネットサイトを通じての交流はお互いの顔が見えないだけに、相手の意図を量るための情報量に乏しい。そのような、本来の目的ではない使用を予防するための有効策は、コンピューターハッカーやウィルスに対するものと同様、特効薬がないと言わざるを得ず、運用上の危険性は認識すべきであろう。