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運動ニューロン疾患:診断および管理に関する最新臨床情報

Motor neurone disease: a practical update on diagnosis and management
Wood-Allum C; Shaw PJ
Clin Med. 2010, 10, p252-258


抄録・解説 LTTプログラム委員 岩崎泰雄先生

要旨

 運動ニューロン疾患(MND)は、四肢、延髄および呼吸筋の筋力低下の発症後、多くは3~5年で呼吸不全により死に至る成人発症の神経変性疾患である。多くのMNDは孤発性であるが、約10%は遺伝性である。最近の飛躍的な進歩により、2つの新しいMND遺伝子が同定された。診断は臨床所見により行われ、時に困難であるが、診断にあたって治療可能な類似疾患を除外しなければならない。リルゾールは、MNDのなかで筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対して唯一利用可能な薬剤であり、生存期間をわずかであるが(3~4ヵ月)延長させることが示されている。このような状況から、疾患管理は症状緩和と自立性および生活の質(QOL)の保持が中心となる。栄養不良は予後不良因子である。経腸栄養は、適応となる患者には推奨されるが、その使用により生存期間が改善することが示されている。球機能が正常または軽度障害の呼吸不全を伴うALS患者では、非侵襲的陽圧換気法(NIPPV)が生存期間を延長させ、QOLを改善する。

疫学および危険因子

 MNDの発病率は人口10万人あたり1~2人、有病率は10万人あたり約6人である。一般に中年後期に発症する。危険因子として、加齢、男性、遺伝的感受性が証明されている。ALSの約90%が孤発性、残りが家族性である。

家族性運動ニューロン疾患

 家族性MNDの多くは常染色体優性である。家族性ALSの約20%でCu/Zn superoxide dismutase(SOD1)遺伝子の変異が認められている。さらにRNA/DNA結合蛋白をコードする2つの遺伝子、TARDBPおよびfused in sarcoma(FUS )が家族性ALSの原因遺伝子として明らかにされ、家族性ALSの約10%でこれらの変異が認められている。

診断

 決定的な診断検査がないため、診断は臨床所見により行われ、電気生理学的検査を用いて類似のMNDを除外する。ALSの正式な診断基準はEl Escorial改訂診断基準による。ALSの早期診断は、治療薬であるリルゾールの投与を可能にするが、臨床的に明確なALS基準を満たす頃には末期にまで進行している。

検査

 検査は、臨床所見の裏づけとなる知見の提供、疾患重症度の明確化の他、良性または治療可能な類似症状のMNDを区別するのに重要である。電気生理学的検査、MRIによる画像診断の他、血液検査、脳脊髄液検査、遺伝子検査、呼吸機能検査などが行われる。電気生理学的検査は、臨床症状が認められるものだけでなく、まだ臨床症状が認められない領域のMNDの下位運動ニューロン像も特定することができる。

運動ニューロン疾患の管理

 MNDは、神経内科医、一般開業医、専門看護師、作業療法士、理学療法士、言語療法士、栄養士、消化器専門医、呼吸器専門医、ソーシャルワーカー等からなる総合医療チームによって最善の管理が受けられる。現在MNDに使用可能な治療薬はALSに対するリルゾールのみである。本剤はシナプス前グルタミン酸放出を抑制し、ALS患者において平均3~4ヵ月の延命効果を有し、一部の患者集団ではそれ以上の効果が認められている。疾患管理は症状緩和と自立性およびQOLの保持が中心である。栄養不良は予後を不良にするため、積極的に経口摂取を管理しなければならない。関連する前頭側頭型認知症(FTD)、脱水症や反復性誤嚥性肺炎をきたした患者には経腸栄養が適用される場合がある。MND患者で、球機能が正常または軽度障害の呼吸不全を伴う患者においては、NIPPVが生存期間を延長させ、QOLを改善することが示されている。

コメント

 ALSにおいて、これまでにどういうことが知られてきているかについてのまとめである。疫学および危険因子に関してはイタリアのサッカー選手において、有病率が高いとの報告もなされており、外傷との関連性も指摘されている。遺伝子に関しては、TARDBPなどの新しい遺伝子が関連していることが明らかにされているが、その詳細に関しては、いまだ不明な点が多く残されている。また、認知症との合併例に関しては、最近注目されており、古典的ALSの10%は前頭側頭型認知症を合併し、グアムで多発しているケースは認知症、錐体外路症状を併発することが知られている。診断に関しては、基本的には他の鑑別となる疾患を除外して初めてALSとの確定診断に至り、一般的に発症から確定診断に至るまでの期間に1年半くらい要しているが、薬物療法を考えた場合、確定診断に至る期間を短縮させないといけないのは明白である。この点を考えるとALSの診断の鍵となるバイオマーカーの発見が重要と考えられる。
 NIHによると、専門家によりALSと診断され、初めてリルゾールが投与されている。理論的には初期の神経保護的な治療をいかに早くスタートさせるかが重要であり、発症から初期段階のうちに治療を始めることが課題であることは言うまでもないことである。260例のALSの調査において13%は不適当な手術を行われていたとする報告もある。ALSの1型であるPMAは、約19%が他の疾患と診断されているとの報告もある。このことは、純粋な下位運動ニューロン疾患を呈するケースは、その後の経過観察が重要であることを示している。MRIの重要性については、30%のケースにおいて、整形外科的疾患と誤診を受けていたという報告もされている。球症状のみを呈し、MRIにて舌癌と診断されたケースもあり、この点はMRIの重要性を物語っている。
 栄養の程度は疾患の予後ときわめて相関すると考えられている。患者は医療機関を受診するたびに、必ず体重測定することが重要である。食思不振が呼吸障害の初期症状として現れることもあり、この点にも注意を向ける必要性がある。
 10~15%程度の体重減少が認められたら、胃瘻を考慮するべきという報告もある。しかし、胃瘻を望まない患者も存在しており、この点については、今後の検討が必要である。繰り返しの肺炎および脱水は胃瘻を考慮する際のサインとも言われている。NIPPVは生存期間を延長させ、QOLを上げることも示唆されている。しかし、一人暮らしの患者や上肢の機能の著しい患者においてはNIPPVをいかに適応させるかの課題も残されている。