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海外文献

基礎

家族性筋萎縮性側索硬化症におけるTDP-43遺伝子変異

TDP-43 mutation in familial amyotrophic lateral sclerosis
Yokoseki A, Shiga A, Tan C-F, Tagawa A, Kaneko H, Koyama A, Eguchi H, Tsujino A, Ikeuchi T, Kakita A, Okamoto K, Nishizawa M, Takahashi H, Onodera O
Annals of neurology. 2008;63 (4):538-542


抄録・解説 LTTプログラム委員 郭 伸先生

要旨

 近年、分子量43kDaのタンパクTAR-DNA-binding protein(TDP-43)がALSと前頭側頭葉変性症の病的タンパクであることが示されている。われわれは以前、孤発性ALSの病理的特徴であるBunina小体とSkein様封入体が下位運動ニューロンに見られたSOD1遺伝子変異のない家族性ALSの症例を報告した。SOD1遺伝子変異のない16家系中、一家系の2世代にわたる3例の患者のTDP-43遺伝子にA1028Gの点変異、すなわちアミノ酸レベルでの343位のグルタミンからアルギニンへの一塩基置換がみられた。この変異はALSの分子病態に新たな視点を与える。

症例・方法

 SOD1遺伝子変異が除外された家族性ALSの16家系について、高分子ゲノムDNAを抽出した。患者1例と正常対照1例については剖検脊髄からRNAを抽出した。孤発性ALS患者92例、剖検で孤発性ALSが確認された20例、剖検で関連疾患が確認された4例のゲノムDNAを正常対照例と比較し、TDP-43遺伝子全エクソンのシークエンスを行った。剖検例についてはTDP-43の免疫組織化学的検討を行った。ヒトcDNAライブラリーからTDP-43の野生型cDNA、変異型TDP-43(Q343R)cDNAのプラスミドコンストラクトを作成しCOS-7細胞、HEK293細胞、C6細胞に導入した。剖検脊髄組織からサルコシル不溶性、ウレア可溶性画分を抽出し、Western blottingを行った。

結果

 遺伝子変異:家族性ALS16家系の解析により、3名の発症者ではTDP-43タンパク343位のアミノ酸をグルタミンからアルギニンに置換させる変異(エクソン6A1028 G)を認めた。そのうちの1例の剖検脊髄のRT-PCR産物のシークエンスにより野生型、変異型TDP-43アリルが共に発現していることが明らかになった。この変異は健康人267名、孤発性ALS患者92例、剖検で確かめられた孤発性ALS20例、剖検で確認された関連疾患4例(前頭側頭葉変性症1例、運動ニューロン疾患を伴う前頭側頭型デメンチア2例、原発性側索硬化症1例)のいずれにも認められなかった。TDP-43遺伝子343位のグルタミンは各種動物で保存されていた。
 患者の発症年齢は52~75歳で、すべてに進行性球麻痺症状が見られた。下位運動ニューロンにBunina小体、ユビキチン陽性神経細胞質封入体、中枢神経系のあらゆる部位にTDP-43陽性神経・グリア細胞質封入体が認められた。TDP-43のWestern blottingにより、孤発性ALSに比べて濃い45kDa、25kDaのバンドが検出された。細胞への導入実験により、変異型TDP-43タンパクが野生型と同様、核質に点状の局在をとること、一部はcoilinと共局在すること、したがってQ343R変異により細胞内局在には変化がないことを示した。

考察

 非発症者からのDNA検索ができず、TDP-43の局在に異常を見いだせなかった、という缺点はあるが、次の3つの理由―TDP-43タンパクのQ343R変異が健常日本人染色体534本に見いだされないこと、343位のグルタミンが種を超えて保存されていること、1例の剖検例を含む3例の同一家系の発症者に同じ変異が見いだされたこと―から、このTDP-43遺伝子変異が責任遺伝子であると考える。剖検脳脊髄のTDP-43免疫組織化学的検討により、遺伝子変異のあった症例では孤発性ALS同様、神経・グリア細胞質封入体に局在することがわかった。一方で、前頭側頭型デメンチアに見られる封入体は、この症例の海馬顆粒細胞、頭頂葉・側頭葉・島回には見られないこと、発症者3名のいずれにもデメンチアは認められなかったことから、Q343R変異は前頭側頭型デメンチアの責任遺伝子ではないと考えられる。TDP-43のこの変異による機能異常を証明する知見は得られなかったが、孤発性ALS同様の分解産物の増加が見られた。変異がTDP-43のheteroegnous nuclear ribonucleoprotein (hnRNP)との結合ドメインであるC末端に生じていることから、RNA-splicingを阻害する可能性がある。変異の頻度は低いが、孤発性ALSとの神経病理的類似性からはALSの発症メカニズムへの洞察に繋がるであろう。

コメント

 孤発性ALS運動ニューロン、前頭側頭型デメンチアの皮質細胞封入体に見出されたTDP-43の異常から、このタンパクが両疾患の病因分子であるという仮説の下に多くの研究がこの2年間なされてきた。本論文は、TDP-43遺伝子の点変異が家族性ALSを引き起こすことを示した本邦からの報告である。この報告は、発症者3名のうち1名に詳細な病理解析がなされていることと、孤発性ALSや前頭側頭型デメンチアに見られるのと同じTDP-43の断片化を示していることを明らかにし、TDP-43タンパクの分解産物の蓄積が、 ALSの病因に深く関わることを示している。さらに、変異TDP-43の細胞内局在が野生型と何ら変わらないことから、変異TDP-43が新たな機能を獲得したものではなく、核からの染色性喪失に見られるように機能低下による発症メカニズムを提唱している。著者らは核内hnRNPとの結合阻害によるloss of functionによるRNA splicing異常を想定している。
 この報告に相前後して、10種類以上のTDP-43遺伝子変異が家族性ALSの病因遺伝子として報告されたが、興味深いことに、ごく一部の散発的な報告を除き、TDP43遺伝子変異による家族性デメンチアの報告はなく、TDP43遺伝子変異による神経毒性は運動ニューロンに特異性をもつようにみえる。皮質ニューロンに見られるTDP-43陽性封入体と、運動ニューロンに見られるそれとは、形成の分子メカニズムが異なるのかもしれない。TDP-43変異のある家族性ALSの発見は、患者の大多数を占める孤発性疾患と病理学的類似性を示す家族例の遺伝子変異という点から、アルツハイマー病におけるAPP遺伝子変異を伴う家族例の発見の経緯を思い出させる。この発見はアミロイド(Aβ)仮説を飛躍的に促進させ、抗体療法の臨床適用にまで進んだが、β-アミロイドの消失と臨床的改善とは相関せず、アミロイド仮説を見直そうという方向性が出てきている。脳に蓄積する異常タンパクを手がかりとした病因研究は大きな意義があるが、蓄積した異常タンパクの毒性からのアプローチよりも、異常タンパク蓄積を生ずるメカニズムの解明がやはり本道であろう。事実、この論文では、TDP-43タンパク局在を見る限り、野生型と変異型とでは明らかな差異をみいだせなかったとしている。TDP-43の異常な蓄積に伴う細胞死に至る下流のカスケードの解明と同時に、TDP-43の異常な蓄積を生ずる上流の分子メカニズムの解明が、今後の研究の課題である。孤発性ALSの病因メカニズムに通じうる分子異常であり、AMPA受容体サブユニットのRNA editing異常など、他の孤発性ALSに特異的な分子異常との連関の解明など、課題は山積しているが、孤発性ALSに関してもようやく病因解明・治療法開発への糸口がつかめてきた段階である。