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海外文献

基礎

孤発性筋萎縮性側索硬化症におけるFUS 遺伝子変異

Mutations of FUS gene in sporadic amyotrophic lateral sclerosis
Corrado L; Del Bo R; Castellotti B; Ratti A; Cereda C; Penco S; Sorarù G; Carlomagno Y; Ghezzi S; Pensato V; Colombrita C; Gagliardi S; Cozzi L; Orsetti V; Mancuso M; Siciliano G; Mazzini L; Comi GP; Gellera C; Ceroni M; D'Alfonso S; Silani V
J Med Genet, 2010, 47, p190-194


抄録・解説 LTTプログラム委員 齋藤豊和先生

はじめに

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は上位、下位運動ニューロンの変性で四肢の筋力低下、筋萎縮と痙直をきたし、絶え間ない進行により5年以上の生存率は低い疾患である。ALSの多くは孤発性(SALS)であり、家族性(FALS)は10%以内とされている。FALSの20%でSOD1 遺伝子が、また約5%でTARDBP 遺伝子のvariantが認められている。そのうえ、少なくとも5つの遺伝子(ALS2SETXDCNT1VAPBANG )変異が個々のFALSで明らかにされている。最近、16番染色体上に位置するFUS (fused in sarcoma)遺伝子変異がFALSの約5%にみられ、いずれもSOD1TARDBP 変異は陰性であったとの報告がある。FUS 遺伝子変異はイタリアのFALS家系でも確認され、正常ではすべて陰性である。これらの大多数のFALSでは、FUS 遺伝子変異はヘテロ接合体であり、常染色体優性遺伝形式をとる。また15の異なるミスセンス変異がエクソン5、6、14、15上で同定されている。FUS 蛋白は正常では細胞核に局在しているが、FUS 遺伝子変異のあるものでは下位運動ニューロンの細胞質FUS 免疫反応性封入体がみられるとの報告がある。FUS はDNA/RNA 結合蛋白であり、mRNAのtransport、transcription、splicingに関与し、核から細胞質でのDNA/RNA修復にも役割を演じている。SALSにおけるFUS 遺伝子変異のスクリーニングはSALSでは今まで1試験しか実施されておらず、解析された米国の293例のSALSでは検出された遺伝子変異はなかった。
 我々は、過去に施行したSOD1ANGTARDBP 遺伝子スクリーニングではFALSのみでなくSALSでもかなりの頻度で変異を見出していることから、イタリア人ALSの大規模コホートでFUS 遺伝子の解析を実施した。

目的

 多数(964例)のSALSを含むイタリア人患者1,009例のALSの大規模コホートにおいて、FUS 遺伝子変異を同定し、その頻度を決定することである。

方法

 ALSの診断はEl Escorial revised criteriaによった。ALS患者は以前にSOD1ANGTARDBP 遺伝子変異のスクリーニングを行い、陰性である1,009例(FALS 45例、SALS 964例)のALS患者を対象にし、FUS 遺伝子のエクソン5、6、14、と15の遺伝子変異をスクリーニングし、またFALS全例およびSALS 293例についてはFUS の全コード配列の遺伝子解析を実施した。

結果

 9例(7例のSALS、2例のFALS)で7つのミスセンス(p.G191S、p.R216C、p.G225V、p.G230C、p.R234C、p.G507Dとp.R521C)が同定されたが、対照群(健康成人)500例では認められなかった。SALS、FALSの各1例で同定されたp.R521C変異を除いてすべて新規の変異であった。この2例(SALS、FALS)は通常みられない類似した臨床像を呈し、SALSの男性例は34歳発症時、頸部の前後屈の筋力低下を伴う肩甲帯の筋力低下を呈し、下肢は筋力低下なく、他のFALSの女性例は54歳発症で前例と同様の頸部障害を伴う肩甲、上肢帯の筋力が主要徴候で、1年後に球麻痺、呼吸障害へと進展した症例である。p.G507Dとp.R521Cを除きSALS患者で同定された遺伝子変異は、エクソン6でコードされたグリシンに富む(glycine-rich)領域にすべて存在した。さらに2つのポリグリシン・モチーフに8つの異なるイン・フレーム欠失が認められたが、その頻度は患者群と対照群間で有意な差はなかった。

結論

 FUS ミスセンス変異は、イタリアのSALS症例の0.7%にみられ、FALSでみられた変異頻度4.4%を追認するものであった。通常みられない近位部、軸性(体幹性)の筋力低下などの臨床所見は、各1例にみられたSALSとFALSではp.R521C変異に関連するものと思われた。
 このFUS 遺伝子変異の分析はALS発症機序の解明に寄与するものであり、特に検討不十分なSALSにおいても本遺伝子の関与が示唆された。

コメント

 2009年、欧米諸国でFALSの原因遺伝子としてFUS 遺伝子変異が報告された1)。わが国では東北大学の研究者によりFALSの大家系においても欧米と共通するR521C位の変異を見出した。さらに東北大学神経内科では遺伝子未確定の常染色体優性遺伝形式をとる40家系でFUS 遺伝子を施行し、4つの変異(G513P、K510E、R514S、H517P)をエクソン14、15に見出している。わが国を含むアジア人種ではFUS 遺伝子変異を有する家系では早期発症、急速進行、高浸透率の特徴を有する。FUS はTDP43と類似構造を有し、DNA/RNA代謝に重要な働きを有するとされている。2010年にAnnals of Neurologyに掲載された論文において、脊髄前角ニューロンでのFUS 免疫反応の検討では、遺伝子不明のFALS 10例でFUS 免疫反応陽性封入体がみられ、この封入体はTDP43、p62、ユビキチンに対する抗体にも免疫反応陽性であった2)。SALSでもFUS 遺伝子変異が存在し、今後FALSとともにSALSのFUS 遺伝子変異が臨床像の亜型としてとらえ得るかなど、さらなる検討が必要となる。

参考文献

1) Suzuki N, Aoki M, Warita H, et al. FALS with FUS mutation in Japan, with early onset, rapid progress and basophilic inclusion, J Hum Genet 55(4): 252-254, 2010
2) Deng HX, Zhai H, Bigio EH, et al. FUS-immunoreactive inclusions are a common feature in sporadic and non-SOD1 familial amyotrophic lateral sclerosis. Ann Neurol 67(6): 739-748, 2010