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海外文献

臨床・診断

低含有のカルシウム、マグネシウム、高含有のアルミニウムの食事を慢性的に摂取したマウスでは筋萎縮性側索硬化症(ALS)と同様の皮膚の病変が認められる

ALS-like skin changes in mice on a chronic low-Ca/Mg high-Al diet
Kihira T, Yoshida S, Kondo T, Yase Y, Ono S
Journal of the neurological sciences. 2004;219 (1-2):7-14


抄録・解説 LTTプログラム委員 尾野精一先生

緒言

 ALS患者の臨床特徴として末期に至るまで褥瘡が起こらないこと、皮膚をつまんで離しても元の位置に戻るまで時間のかかる現象(皮膚のつまみ現象)が知られている。これまでのALS患者の皮膚の形態学的研究は膠原線維の小径化、無定形物質の沈着などを明らかにしており、これらの変化はALSに特異的と考えられている。

 1945年と1960年におこなわれた調査では紀伊半島とGuam島ではALSの有病率は他地域に比較して50-150倍も高いことが明らかになった。紀伊半島古座川地区およびGuam島の疫学的研究はこれらの地域の土壌および飲料水には低濃度のCa, Mg、高濃度のAl, Mnが含まれていることを示している。これまでの研究よりALS患者の脳および脊髄ではCa, Mgの沈着が明らかになっている。AlはGuam島、紀伊半島のALS患者の脳で認められるneurofibrillary tangle(NFTs)に存在することが知られている。これらの所見より、低濃度のCa, Mg、高濃度のAlを含む食事を慢性的に摂取すると、中枢神経にAl, Caの沈着を引き起こし、このことは紀伊半島、Guam島のALSの神経変性に重要な役割を果たしていることが推測される。これまでの研究において長期間低含有のCa, Mg、高含有のAlの食事を与えられた実験動物では、脊髄前角細胞と大脳皮質の神経細胞減少および大脳皮質におけるタウ陽性ニューロンの出現が報告されている。

方法

1) 動物および食事
 マウスを5群に分け、それぞれの群にAl-マルトールを追加した食事、標準食、低含有Ca/Mg高含有Alマルトール食事、低含有Ca/Mg食事、マルトールを追加した食事を11ヶ月から31ヶ月間与えた。
2)組織
 大脳、小脳、脳幹、脊髄、皮膚の各組織にHE染色、KB染色をおこなった。さらにタウ、ユビキチン、GFAP、アミロイドβタンパクの各免疫染色をおこなった。Al, Ca観察のためにMorinの蛍光法を用いた。さらに12ヶ月間食事を与えたマウスの皮膚を電子顕微鏡で検討した。
3)形態学的評価
 皮膚の膠原線維の直径は2,700本を計測し、その平均をとった。

結果

1)動物
 第1, 2, 5群のマウスは徐々に体重が増加し第4群は24ヶ月以内に死亡した。
2)組織所見
 光顕所見では第3, 4群の脊髄前角細胞に萎縮したニューロンが認められ、さらに第3群ではスフェロイドがしばしば認められた。第3, 4群の大脳皮質では神経細胞減少がみられた。対照群を含め程度の差こそあれ、すべての群においてタウ陽性ニューロンが大脳皮質、海馬、中脳水道中心灰白質で認められた。 

第2, 4群では、皮膚の附属器官および真皮にCa, Alの沈着がみられ、第3群では表皮、皮膚附属器官の他に真皮においてもCa, Alの沈着が認められた。

第3, 4群では皮膚の膠原線維は第1, 2, 5群に比較して膠原線維束は断裂、離開してた。第3, 4群ではさらに膠原線維束間に無定形物質が観察された。

考察

 本研究では低含有Ca/Mg、高含有Alの食事を与えられたマウスでは脊髄前角細胞に萎縮したニューロン、スフェロイドが観察された。低Ca/Mg含有、高含有Alの食事を与えられたマウス、また、程度は軽度ではあるが低Ca/Mgの食事を与えられたマウスでは、皮膚の萎縮、膠原線維束の断裂、離開、無定形物質の沈着がみられ、これらの所見はALSで記載されている皮膚所見と類似している。

 本研究で認められた皮膚における無定形物質の沈着は低濃度のCa/Mg状態が続いたためにある代謝性変化がおこったためと考えられる。Guam島のALS患者、対照群はいずれも皮膚膠原線維の変化が観察されている。これらGuam島の患者、本研究における低含有のCa/Mg、高含有のAlを含む食事を与えられたマウスはいずれも皮膚の萎縮と無定形物質の沈着を示しているが、Alの濃度が膠原線維の直径に影響を与えていると考えられる。本研究の結果は紀伊半島、Guam島のALS発症には低濃度のCa/Mg、高濃度のAlを含む飲料水、土壌などの環境要因が何らかの役割を果たしていることを示唆している。

コメント

 以前より、ALS患者は末期に至るまで褥瘡の起こらないことが知られており、この理由はいまだ不明である。さらにALS患者の皮膚はなめし皮のようにしなやかであり、皮膚をつまんで離すと元の位置に戻るのに時間のかかる現象(“皮膚のつまみ現象”)がみられる。これは通常2年以上経過患者にみられる。皮膚のつまみ現象は褥瘡の起こらないことはALSに特異的と考えられるが、これまであまり注目されていない。

 1986年、OnoらはALS患者の皮膚生検をおこない、(1)膠原線維の小径化、(2)膠原線維の直径はALSの罹病期間と有意の負の相関があること、(3)無定形物質の著しい増加がみられること、(4)これらの所見は対照群ではみられなかったことを報告した。一般に、膠原線維の直径は加齢とともに増加することが知られている。従って、ALS患者にみられたこれらの変化はALSに特徴的で、膠原線維の小径化は基質における無定形物質の増加と関係があるものと考えられている。その後、前述したALSの“皮膚のつまみ現象”の発現には無定形物質の増加と膠原線維の断裂、離開、細小化が必要であることが示された。さらに、OnoらはALS患者にみられたこれらの皮膚所見は同じ運動ニューロン疾患に分類される脊髄性筋萎縮症ではみられず、皮膚所見よりALSと脊髄性筋萎縮症は鑑別可能であると考えた。

 膠原線維の主な機能は、組織に物理的な強靭性と硬直性を与えることであり、これは主に膠原線維間の架橋結合による。加齢とともに還元型の架橋結合は減少し、非還元型の安定した架橋が増加する。皮膚膠原線維の主な架橋はdehydro-histidinohydroxymerodesmosine (deH-HHMD)、dehydro-hydroxylysinonorleucine (deH-HLNL)、histidinohydroxylysinonorleucine (HHL)である。前二者は還元型であり、HHLでは非還元型の安定した架橋である。ALS患者ではHHLの量は対照群に比較して明らかに減少しており、さらにHHLの量とALSの罹病期間との間に有意の負の相関があることが明らかになった。一方、ALSではdeH-HLNLとdeH-HHMDは対照群に比較して増加しており、ALSの罹病期間との間に有意の正の相関がみられることが示された。deH-HLNL、deH-HHMDなどの還元型架橋は加齢とともに減少し、HHLのような安定した非還元型架橋は加齢とともに増加することが知られている。還元型架橋は新たに合成される膠原線維にみられ、膠原線維の合成が活発である場合のみ還元型架橋が増加するので、ALS患者におけるdeH-HLNLとdeH-HHMDの増加は新しい膠原線維の合成がさかんにおこなわれ、その結果還元型の未成熟型架橋が増加していると考えられている。以上のことより、ALS患者の皮膚では加齢と逆の現象、すなわち皮膚の若返り現象が起こっているものと考えられる。

 これまでALS患者のグリコサミノグリカン(glycosaminoglycans,GAGs)の形態学的および生化学的研究により以下のことが明らかになった。(1)ALS患者の皮膚では膠原線維束の間のスペースは広くなっており、この部分はアルシアン青染色で濃染する。さらにこの濃染した部分はStreptomycesヒアルロニダーゼ消化試験で消失することより、この広くなった膠原線維束間の部分はヒアルロン酸が増加しているものと考えられる。(2)ヒアルロン酸の尿中排泄量はALS患者では著明に増加しており、発症以来2年以上経過した進行したALS患者においてはこの排泄量とALS罹病期間との間に有意の正の相関がみられる。(3)皮膚のヒアルロン酸の生化学的定量では、ALSでは対照群と比較して明らかに増加しており、ALSの経過とともに増加していく。これらの結果より、ALS患者の皮膚ではヒアルロン酸の増加などのGAGsの代謝が変化しており、皮膚のヒアルロン酸の増加がヒアルロン酸の尿中排泄量の増加と関係があるものと考えられる。

参考文献

1. Ono S, Toyokura Y, Mannen T, et al. “Delayed return phenomenon” in amyotrophic lateral sclerosis. Acta Neurol Scand 77: 102-7, 1988
2. Ono S, Mechanic GL, Yamauchi M. Amyotrophic lateral sclerosis: unusually low content of collagen in skin. J Neurol Sci 100: 234-7, 1990
3. Ono S, Yamauchi M. Amyotrophic lateral sclerosis: Increased solubility of skin collagen. Neurology 42: 1535-9, 1992
4. Ono S, Yamauchi M. Collagen cross-linking of skin in patients with amyotrophic lateral sclerosis. Ann Neurol 31: 305-10, 1992
5. Ono S, Imai T, Takahashi K, et al. Decreased type IV collagen of skin and serum in patients with amyotrophic lateral sclerosis. Neurology 51: 114-20, 1998
6. Ono S, Nagao K, Yamauchi M. Amorphous material of the skin in amyotrophic lateral sclerosis: A morphologic and biochemical study. Neurology 44: 537-40, 1994
7. Ono S, Imai T, Yamauchi M, et al. Hyaluronic acid is increased in the skin and urine in patients with amyotrophic lateral sclerosis. J Neurol 243: 693-9, 1996