トップ > 医療関係者向け > 海外文献 トップ > 臨床・診断 > イタリアのフットボール選手の間では筋萎縮性側索硬化症(ALS...

海外文献

臨床・診断

イタリアのフットボール選手の間では筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症する危険性がきわめて高い

Severely increased risk of amyotrophic lateral sclerosis among Italian professional football players
Chio A, Benzi G, Dossena M, Mutani R. Mora G
Brain. 2005;128 (Pt 3):472-476


抄録・解説 LTTプログラム委員 尾野精一先生

緒言

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因は現在なお不明である。ALSの原因仮説としてこれまで細胞外毒素、酸化ストレス、ニューロフィラメントの機能不全、炎症などがあげられてきた。これまでいくつかのケーススタディがALSの危険因子を分析したが、統一した見解は得られていない。これまでに確立された危険因子として加齢、男性があるが、その他の危険因子として以下のものが提出された。すなわち、外傷、金属、除草剤、他の有毒物質への暴露、喫煙、などである。1970年以来、スポーツがALSの危険因子として提唱されてきたにもかかわらず、ALSとスポーツの因果関係についてのケースコントロールスタディからは明らかな結果がまだ得られていない。Raffaeleらは1960年より1996年の間にプレーしたフットボール選手24,000人を調べたところ、375人の死亡者のうち8人がALSで死亡したことが判明した。イタリアの死亡統計と比較したところ、フットボール選手のALSによる死亡は有意に高いことが明らかになった(未発表データ)。本研究はこのデータをふまえて、イタリアのフットボール選手のALS罹病率について詳細な検討を行った。

方法

 対象者:1970年9月1日より2002年6月30日までにプレーしたすべての男性フットボール選手。
 ALS症例:ALSと診断するのに以下の記録が用いられた。1) 1970-2000年の間のイタリア統計局より得た死亡診断書、2) 主要なイタリアのALSセンターの記録、3) マスコミからの情報、4) ALS患者あるいはその親戚。ALSが疑われた症例については、病院の記録を含む詳細な臨床データが集められた。生存している場合は患者と面接した。患者がすでに死亡していた場合は家族と主治医に面談した。また、患者の生活歴、フットボールでの所属したチーム、そこでのポジション、プレーした期間、引退後の職業、主な外傷、服用した薬についての詳細な情報が集められた。誤診の危険を避けるためにdefiniteないしprobable ALSのみを本研究に含めた。

結果

 全体で18名のフットボール選手がALSと判明した。このうち、3名は出生地がイタリアでないために除外された。10名の選手は1970年以前にプレーしたために除外された。以上より5名が対象となり、2名は1980年より1989年の間にALSと診断され、3名は1990年より2001年の間にALSと診断された。5名のALS発症の時期は各々1981、1984、1999、2000、2001年である。平均発症年齢は43.4歳であった。3名は球麻痺型であり、2名は古典型で、球麻痺型が有意に高率であった。どの患者も家族歴はなく孤発性であった。興味深いことに、どの患者も入院を必要とするような目立った外傷歴はなく、また金属や溶媒の暴露歴もなかった。5人のうち1人はALSの症状出現後もまだフットボールを続けていた。残りの4人はフットボール選手としての引退時期とALSの発症時期との間には4年から19年の隔たりがあった。2003年12月31日の時点では4名がすでに死亡しており、1名が存命中であった。4人の死去した患者の平均罹病期間は32.8ヶ月であった。存命中の1人の罹病期間は42ヶ月であった。いずれの患者も気管切開を受けていなかった。
 イタリアのALS登録センターのデータを参考にしてみると、ALSの発症のリスクとフットボール選手としての活動期間とは有意の正の相関が認められた[標準死亡率3.5(5年以下)、15.2(5年以上)]。またポジション別ではミッドフィルダーがALSの危険性がきわめて高率であった。

考察

 我々の知る限り、本研究は後向き調査によりALSとフットボール選手の間に有意の関連があることを示した最初の研究である。この研究はイタリアのフットボール選手はALSで死亡する危険性が高いという因果関係がみられたことより行われた。
 我々の研究でみられた標準化死亡率(SMR)はALSの危険因子と言われているものの中では最も高かった。フットボール選手としての活動期間とALS発症との間に明らかな相関が見いだされている。興味深いことに、調査した期間でALSを発症した18人のフットボール選手全員を考慮してみると、平均発症年齢は51.2歳で、予想平均年齢よりも10歳以上若年であった。5例の臨床特徴を考慮した場合、イタリアのデータと比較すると球麻痺型が明らかに多かった。平均罹病期間は若年発症のALSの平均罹病期間と比較して短かったものの古典型ALSの範囲内であった。
 我々の研究結果は、イタリアでフットボール選手でいることはALS発症の高い危険性の一つであることを示していると考えられる。このことに対し以下の4つの仮説が考えられる。1) フットボール選手のALS発症は、たまたまスポーツないしは運動と関係していただけのことであり、それ故ALSとフットボールは関係がない。2) ALSは全身の筋肉を使用するフットボール選手の外傷と関係がある。3) ALSは筋力を増強させる目的で使用される薬物が長期間使用されていたことと関係がある。4) ALSはフットボール場で使用されている肥料や除草剤と関係がある。
 フットボール選手に特徴的な外傷がALS発症に及ぼす影響は、外傷はALSの危険因子と言われていることより(Strickland et al., 1996)、除外することはできない。しかしながら、現時点では、ALSと外傷の関係を支持するデータはたとえあるにしても少数である(Kurland et al., 1992, Armon, 2003)。興味深いことに5例中3例は球麻痺型であり、このことはフットボールではボールをヘディングすることと関係があるのかもしれない。結局のところ、ALSとフットボールの因果関係は不明であるものの、フットボール選手においてALSの罹病率が有意に高いことは注目すべきである。

コメント

 Kingtonら(2003)は1990年より1996年にプレーしたイタリアの24,000人のサッカー選手を調査し、計33名がALSを発症し、そのうちすでに13名がALSで死亡したと報告した。ALSの頻度は人口10万人あたり0.6-2.6人で、この数字は各国でほぼ同じである。このことを考慮すればイタリアのサッカー選手のALS発症率はきわめて高いことになる。一方、イタリアのフットボール選手のALSの発症率はイタリアの全国平均と比較した場合少なくとも20倍も高率であり、さらにサッカー選手のALS発症年齢は40歳代で、これはイタリアのALS平均発症年齢が63.8歳であることを考えればかなりの低年齢であると言うことができる。また最近30年におけるイタリアの競輪選手6,000人を調査したところ、ALSを発症した者は皆無であった。このことよりサッカー選手や競輪選手に共通している過酷な肉体活動はALSの一次的な危険因子ではないと考えられる。スポーツの世界において、プレー中にヘッディングなどで頭部外傷の危険にいつもさらされているという点で、サッカーはユニークなスポーツである。このことからサッカー選手ではALS発症の割合が高いのではないかと考えられている。しかしながら、これまでALSと頭部外傷との因果関係やALSと頭部、頸部、背骨の骨折との因果関係は証明されていない。
 これまでALSと外傷との因果関係についての多くの疫学的研究がある。Jelliffe(1935)は92名のALS患者のうち10名が頭部ないしは頸部の外傷があったとしている。Kondoら(1981)は712名の運動ニューロン疾患患者と637名の対照群を調べ、運動ニューロン疾患の42名、対照群の7名に頭部外傷がみられたとしている。Gawelら(1983)は63名のALS患者と61名の対照群を調べ、過去5年間に32名のALS、42名の対照群に頭部外傷を認めたとしている。Gollogherら(1987)は135名のALS患者、85名の多発性硬化症患者を調べ、発症1年以上前に31名のALS患者、13名の多発性硬化症患者に頭部外傷がみられたと報告している。Williams(1991)は821名の頭部外傷患者のうち1名がALSを発症したと報告している。Stricklandら(1996)は25名のALS患者、25名のALS以外の神経筋患者のうち15名のALS、8名のALS以外の患者に重篤な頭部、頸部、背部の外傷の既往がみられたと報告している。Mandrioliら(2003)によれば143名のALS患者のうち発症前の30年間に9名が頭部外傷を受けている。
 Scarmeasら(2002)の調査によれば、他の神経疾患と比較した場合、ALS患者は過去に運動選手であったり、体型的にやせている人が多い。さらにScarmeasら(2002)は、ALS患者はALSを発症しやすい遺伝子の表現型を有しているとも述べている。これらの遺伝子のいくつかは同定されている。孤発性ALSの12%はSOD1 mutationのヘテロ接合体であることが判明している。ALS発症と関係のある大きな役割をはたす一つの遺伝子は別にして、孤発性ALSは補助因子(co-factors)の存在に加え、いくつかの遺伝子が共に作用することにより発症するのかもしれない。これらの補助因子(co-factor)のなかで、運動や活発な身体活動も当然外傷に含まれると仮定して、外傷は一つの重要な要素をなしている可能性がある。
 本邦におけるALSと外傷や物理的要因による危険因子に関する研究は、近年では2002年に五十嵐ら(2002)の報告がある。五十嵐らはALSにおける変形性頸椎症の合併は統計学的に有意なものなのかを検討している。1988年より1998年までの10年間に入院したALS患者122例を対象とし、頸部MRIにて変形性頸椎症を評価している。結果として頸部MRI施行例79症例の解析にてALSの各病型別の変形性頸椎症合併率は、球麻痺型37%、上肢型61%、下肢型28%で、上肢型での変形性頸椎症合併率が高く、各病型間で統計学的有意差を認めている(=12.417, p=0.002)。彼らは上肢型ALSにおいて変形性頸椎症合併率が有意に高いものと考え、変形性頸椎症は上肢型ALSの危険因子になりうる可能性が示唆されたと結論している。

参考文献

1. Piazza O, Sirén AL, Ehrenreich H: Soccer, neurotrauma and amyotrophic lateral sclerosis: is there a connection? Current Medical Research and Opinion 20: 505-508, 2004
2. 五十嵐修一, 中野亮一, 辻 省次:変形性頸椎症の筋萎縮性側索硬化症における発症危険因子としての検討. 臨床神経 42: 1268, 2002