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臨床・診断

筋萎縮性側索硬化症治療薬の開発―過去の教訓(反省)と今後の展望

ALS drug development: reflections from the past and a way forward
Aggarwal S, Cudkowicz M
Neurotherapeutics. 2008;5 (4):516-527.


抄録・解説 LTTプログラム委員 岩崎泰雄先生

はじめに

 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis;ALS)の発症原因についてはいまだ不明であるが、興奮性アミノ酸毒性、ミトコンドリア機能異常、酸化ストレス、プロテアソーム機能異常、軸索輸送異常、ミクログリア活性化、細胞骨格異常などが指摘されている。ALSの発症原因に関する理解が大幅に進歩したことにより多くの治療薬が開発され、過去15年間に少なくとも32種類の薬剤について第II相および第III相の臨床試験が行われてきた。これまでのところリルゾールが生存期間を延長する唯一の治療薬である。
 最近、試行されている薬剤とその作用は以下の通りである。セフトリアキソン(Ceftriaxone;抗酸化作用)、ONO-2506(抗グルタミン酸作用)、コエンザイムQ10(CoQ10;抗酸化作用)、メマンチン(Memantine;N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)拮抗作用)、MCI-186(フリーラジカルスカベンジャー)、アリモクロモル(Arimoclomol;熱ショックタンパク誘導物質)。また、今後、臨床試験が予定されている薬剤としてはアンチセンスオリゴヌクレオチドSOD1(SOD1タンパクの産生抑制)、タランパネル(Talampanel;α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メソオキサゾール-4-プロピオン酸(AMPA)受容体調節剤)、TRO19622(抗アポトーシス作用)、プラミペキソール(抗酸化作用)などが挙げられる。また、初期からの非侵襲的陽圧換気(non-invasive positive pressure ventilation;NPPV)、胃瘻造設は患者の生存を延ばすことも知られている。

治療選択

 1990年代にSOD1変異遺伝子が発見され、それに引き続いて変異SOD1の動物モデルが作成され、広範なALSの臨床試験が始まった。動物モデルにおける有効性は、必ずしも臨床試験には反映されていない。このことは、ビタミンE、ギャバペンチン、トピラマート(topiramate)、クレアチニン、セレコキシブ、ミノサイクリンの例が物語っている。変異SOD1マウスで認められる空胞変性はヒトでは認められず、変異SOD1モデルがすべてヒトの病理像を反映しているわけではない。薬物動態(pharmacokinetics)に関しても、ヒトとマウスの間では差があり、今後、検討するべき事項は多い。

ALS臨床試験実施上の課題

 現在のALSの臨床試験は、患者の登録基準が上下位運動ニューロン障害を有することとなっているため、発症よりすでに12~15カ月が経過している。発症早期に薬剤を投与することが大切であるが、Traynorらによれば、ALSと診断された時に35%の患者はEl Escorial診断基準を満たしていないため、臨床試験に参加できないという。その後の経過観察において66%は臨床試験に参加可能となるが、18%は診断時から診断基準の区分が変わらず、16%はEl Escorial診断基準でpossibleのため臨床試験への参加を検討されることなく死亡してしまうという。8%のALS患者しか臨床試験に参加できないとの報告もある。臨床試験に参加するためのハードルが高いため、なかなか多くのALS患者が臨床試験に参加できない非常に悪い状態にあると言えよう。過去のALSの臨床試験を顧みると、試験期間が長かったり、副作用でドロップアウト(脱落)する確率は高い。

ALS試験デザインの課題

 薬剤の用量に関しては、忍容可能な最大量が適切な用量ともいえない。クレアチニンの場合、10g/日の投与量はALS群に対しては無効であったが、ハンチントン舞踏病に対しては有効であったとの報告もあり、用量設定については難しい側面もある。臨床試験に参加する患者数に関しても何人程度が適切であるかなど、まだまだ検討する余地がある。
 2種類以上の薬剤を併用する場合は、それぞれの薬剤の相互作用に関しても検討しなければならない。第II相の臨床試験においては主として毒性に注意が向けられており、薬剤の有効性に関してはあまり注目されていないことも多く、この点も、今後、検討すべき事項である。第III相の臨床試験は、薬剤の有効性に関して、どの評価項目に重点をしぼるかが重要であるが、いまだいずれが一番適切な評価項目であるかは知られていない。ただし、筋力低下の程度と生存は関連していないことが明らかになった。
 最近の臨床試験ではALS機能評価尺度(ALS functional rating scale;ALSFRS)が主要評価項目(primary outcome)として用いられているが、ALSFRSの低下率に関してはかなりのばらつきがあることが知られ、ネガティブな要素と言われている。生存と機能との関連についても、かなりのばらつきがある。リルゾールを例に取るならば、生存期間は延長させたが、筋力に関して効果は認められていない。一方、ザリプロデン(Xaliproden)では、肺活量に対しては効果が認められたが、生存期間に関しては認められなかった。イタリアでは、1994~2004年の間にALSと診断された患者は1984~1999年の間に診断された患者と比較して生存期間が長いことが報告されており、このような自然歴におけるばらつきに関しても検討する余地がある。アメリカ北東部ALSコンソーシアム(Northeast Amyotrophic Lateral Sclerosis Consortium;NEALS)によれば、1999~2006年に診断されたALS患者では生存期間が長いことが指摘されている。

コメント

 ここ10年間、ALSの発症原因に関する研究の進歩は著しく目を見張るものがある。また、ALSの治療薬について多くの臨床試験が実施されている。しかしながら、いまだALSの進行を停止させる薬剤は見出されていない。なぜ、被験者全員が実薬ではいけないのか、プラセボ対照試験が本当に必要なのか、ヒストリカルコントロールを用いた臨床試験ではいけないのか。これらの点は今までも論議されてきてはいるが、もう一度、再検討する必要があろう。ALSの新薬を見出すためには、企業、財団、政府からの投資が必要であることは言うまでもない。この点は日本と欧米でかなりの格差があることは明らかである。