海外ALSケア施設訪問リポート

第8回 -ベルリン-(ドイツ医科大学チャリテ)

ベルリンにおけるALS介護の現状 -患者宅訪問より-

 ベルリンにおける ALS 介護の現状を知るために、ベルリン市内に在住する一人の ALS 患者さんを訪ねた。アンゲラ・ジャンセンさんは 53歳の女性 ALS 患者であり、14年前に ALS を発症した。発症時に小学生であった 2人の子供も成人して独立し、現在は一人暮らし。3人のヘルパーが 8時間交代 24時間体制で介護している。統計はとられていないが、ドイツ国内でもジャンセンさんのように人工呼吸器をつけながら、在宅介護で生活する ALS 患者さんは多くはないという。今回、主治医であるマイヤー氏の紹介により、ジャンセンさん宅を訪問させていただいた。
 ジャンセンさんの住むアパートは市内中心部の便利な場所にある。訪問した我々を迎えてくれたのはジャンセンさんとヘルパー女性の他に、室内で飼われているウサギと犬。身体の自由は制限されても、生活を楽しもうとするジャンセンさんの姿勢がうかがえる住まいであった。

■Eye gazeを使ったコミュニケーション

 ジャンセンさんは発症後 4年目に人工呼吸器を装着し、コミュニケーションには「Eye gaze」と呼ばれる装置を用いている。Eye gazeは目の動きをカメラで捉え、パソコン画面上のアルファベット表から選んだ文字を言葉として画面上に文字で表示するとともに、音声で読み上げる装置である。今回のインタビューでも、ジャンセンさんは質問に対する答えをこの装置を使って回答してくれたが、使用法は非常に簡単だという。「動けないことでコミュニケーション手段が限られている ALS 患者さんにとって、この装置を使うことは、生きるためのモチベーションを上げるために非常に役立つと思います」とジャンセンさんは言う。
 Eye gazeを介したコミュニケーションは便利だが、まとまった文章となるまでにやや時間がかかるため、相手もこの装置を介したコミュニケーションのリズムに慣れることが必要だ。ジャンセンさんも実際に急ぐ時や答えが「はい」、「いいえ」の時はそれにあったサインなどで補っているという。Eye gazeが使えないとき(電気がない、場所がない)、例えば外出の時などは、アルファベットのボードを使うこともある。訪問したのは初冬だったが、2日に 1度程度は車椅子で外出しているそうだ。外出時にはヘルパー 2名が必ず付き添うことになっている。

■3交代制24時間の介護体制

 ジャンセンさんの生活をサポートしているのは 3人のヘルパーである。同じメンバーが 3交代制(午前8時~午後4時、午後4時~午前0時、午前0時~午前8時)で介護にあたる。夜間もヘルパーが付き添い、眠ることは許されない。対応してくれた若い女性ヘルパー(アンネさん)はまだ 24歳だが、ジャンセンさんの介護を始めてから既に 4年がたつという。こうした在宅ヘルパーはドイツ国内でもなり手が少なく、常に人手不足とのことであった。なお、ジャンセンさんのように 24時間介護を必要とするような介護度の高い患者さんでは、健康保険、社会保障、介護保険の 3者がヘルパー費用を含めて全て補償し、患者さんの負担はない。人工呼吸器は常に予備の機器を1台備え、停電時にもバッテリーで 24時間稼動する装置を用いている。なお、カニューレの交換は人工呼吸器の会社の専門技術を持ったスタッフが 1週間に 1度行っている。
(手前)ジャンセンさん(後列左より)LTTプログラム委員 佐々木彰一先生、尾野精一先生、齋藤豊和先生、岩崎泰雄先生、アンネさん(ヘルパー)、郭 伸先生
(手前)ジャンセンさん
(後列左より)LTTプログラム委員 佐々木彰一先生、尾野精一先生、齋藤豊和先生、
 岩崎泰雄先生、アンネさん(ヘルパー)、郭 伸先生

■ALS専門医への外来受診で新しい意見を聞くことが重要

 家庭医と呼吸管理にあたる呼吸器科専門医がそれぞれ 3ヵ月に 1度、訪問診療を行い、ALS専門医(マイヤー氏)には 3ヵ月に 1度受診するという。ALS 専門医を外来受診することは負担ではないのかとの質問にジャンセンさんは、「ALS 専門クリニックに行くことで、新しい意見を聞いたり、新しい薬を処方してもらったり、新しい経験が得られます。ですから、この受診は他の人の意見を聞くよりも非常に重要だと思っています。」と答えた。発病以来 14年を経てもなお、積極的に新しい治療を求めるジャンセンさんらしい言葉であった。