学会セミナー

第51回 日本神経学会総会 ランチョンセミナー

治療指針は医師の治療行動に影響する

 ALSは上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが障害される疾患であり、初発症状は半数以上が上肢からの運動麻痺、25%程度が球麻痺、残りが下肢運動麻痺である。これまで報告されたALSの予後に関する研究によれば、ALS患者の発症後の生存期間は、約半数で2~3年とされ、報告によってばらつきはあるものの、5年生存率は9~40%、10年生存率は8~16%と報告されている(図)。ただし、ALSの病態は非常に多様であり、中には30年以上生存する例も稀にあり、自験では診断後37年以上を経過している例もある。さらにALSの発症機序については様々な研究報告がなされ、さらに認知障害を伴ったりする例も少なくないため単一の疾患ではない可能性も示唆されている。

 AANでは今回、新たなエビデンスに基づき、ALS診療指標(Practical Parameter)を改訂した。この診療指標がいかに医師の治療行動を変化させるかについて、興味深いデータを紹介したい。米国ではサノフィ・アベンティス社(現 サノフィ社)のサポートにより、1996~2004年にかけて、ALSの臨床、患者評価、研究、教育に関するデータベースが構築された。このデータベースはALS治療の現状把握のために非常に有益である。例えば、2001年1月~2002年2月のデータによれば、実に79%の患者が1ヵ月あたり320ドルもの金額を代替治療に費やしたことが示され、ALS患者が多くの治療手段を求めている実態がわかる。

 1999年に最初の診療指標が発表された前後の治療の変化を見てみると、例えば努力性肺活量(FVC:forced vital capacity)50%以下の患者における経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG:percutaneous endoscopic gastrostomy)の実施率は、12%から22%へと約2倍に増加した。ただし、その導入について患者と話し合った医師は平均54%にとどまっており、各ALSセンター医療機関(ALSセンター)により、PEGの実施率は大きな違いを示していた。また、非侵襲性呼吸補助(NIV)の実施率も10年前の前回の診療指標の9%から今回の21%(FVC40%以下)へ、FVC40%以上では4%から11%へと増加した。こちらもALSセンターの施設により実施率にばらつきがみられた。

 このように、診療指標を示すことにより医師の治療行動に影響を与え得ることは明確である。

図:ALSの生存期間

提供:三本 博 先生

文献
1)Miller RG,et al.Neurology 73:1218-1226,2009