ALS/MND 国際シンポジウム

第20回 −ドイツ− ベルリン

SESSION11 Symposium Highlights (Biomedical)

演者: L. Van den Bosch
K. U. Leuven, Belgium

学会ハイライト(バイオメディカル部門)

第20回ALS/MND国際シンポジウムにおけるバイオメディカル部門のハイライトは、ベルギー・ルーヴェン大学のVan den Bosch氏が総括した。近年、ALSにおけるTDP-43やFUS/TLSの変異が明らかになり、iPS細胞の開発など、病因解明につながる新たな技術も利用できるようになった。同氏は「ALS研究はエキサイティングな時代を迎えている」と述べ、今学会でも未来への洞察を深める多くの発表があったことを紹介した。

●発症にかかわるさまざまな機序の解明が確実に進展

ALSは複数の因子が関与する疾患であり、これまでにそのうちのいくつかが解明されてきたが、まだ全容解明には至っていない()。さまざまな因子が絡み合うなかで、何が最も重要なのかということはわかっていないが、どれか1つをターゲットとしたところで治療は成功しないだろうとも推測される。
異常蛋白質の凝集は神経変性疾患の多くに共通して見られる現象であるが、今回、この点についてはZetterströmらが変異SOD1と分子シャペロンの相互作用について発表し、Rameshらがゼブラフィッシュモデルでは分子シャペロンとしてHSP70が増加していることを示した。また、Cashmanらは折りたたみ不全SOD1がプリオン様の性質を持つことを指摘し、WalkerやAtkinらは小胞体ストレス応答に関連するProtein Disulphide Isomerase(PDI)がALSの新たなバイオマーカーや治療法として期待されることを示した。
リルゾールの作用の1つとしても考えられているグルタミン酸受容体の過剰刺激によりCa2+の透過性が亢進する興奮毒性の考えをもとに、グルタミン酸シグナル制御におけるHFE遺伝子多型の影響(Connorら)、ミトコンドリアによるCa2+緩衝作用の役割(Jaiswalら)、小胞体-ミトコンドリア間のCa2+サイクルの役割(Grosskreutzら)などが注目された。
Ca2+の透過性亢進には、AMPA受容体のサブユニットであるGluR2におけるRNA未編集型が関与している可能性がある。HideyamaらはRNA編集酵素ADAR2を運動ニューロン特異的に欠失させると運動ニューロン障害が起こることを示した。ALSにおけるミトコンドリア障害の予防につながる研究としては、p66Shcやglutaredoxinの役割をin vitroで検討したCarriらのグループによる発表や、legs at odd angles(Loa)変異マウスにおけるミトコンドリア機能の保護について報告したHafezparastらの発表などが注目された。
そのほか、破傷風毒素を標識として運動ニューロンにおけるシナプスから細胞体への逆行性軸索輸送の障害を示したSchiavoらの研究や、脊髄性筋萎縮症におけるmRNAの軸索輸送について検討したSendtnerらの研究なども示唆に富むものであった。運動ニューロン周囲のミクログリア細胞や星状細胞の神経炎症における役割についても、Heneka、Perrin、Henkelらの発表に貢献が認められた。Hendersonが指摘したように星状細胞による毒性はALSに共通の機序である可能性がある。一方、星状細胞は神経栄養因子も分泌しており、その1つである血管内皮成長因子(VEGF)は、神経保護効果を期待してヒトでの治験も始まっていることがRobberechtによって紹介された。
なお、ALSの原因遺伝子として、家族性ALS患者におけるSOD1以来の大きな発見となったのがTDP-43とFUS/TLSである。これらはいずれもRNA/DNA結合蛋白質であり、遺伝因子あるいは転写後修飾により運動ニューロンの核内での機能を喪失する一方、細胞質に集積して毒性を獲得することがALSの発症に関与していると考えられる(Neumann)。今後、ALSの発症機序を解明していくうえで、RNA代謝の異常という新たな視点も加える必要がある。
ALSの原因解明は、これまで培養細胞、酵母、線虫、ハエ、ゼブラフィッシュ、マウス、ラット等、さまざまな疾患モデルを使って展開されている。ここでさらにiPS細胞の開発によってALS患者自身の運動ニューロンを複製し、研究材料とすることができるようになったのは大きな進展である(Henderson)。よりヒトの疾患に近い状態での運動ニューロンの研究は、新たな治療薬を開発するうえでも重要である。
以上の紹介を終えて、最後にVan den Bosch氏は、同じ研究グループのRobberecht氏がOpening Sessionで語った言葉をこのClosing Sessionでも再度呼び起こした。「われわれはALSと闘うために、現在利用できるさまざまな疾患モデルでの成果を統合して考えなければならないだけでなく、臨床研究者、基礎研究者、そして、患者が力を合わせなければならない」。
図:ALSの原因として関与が示唆される因子

監修

LTTプログラム委員 佐々木彰一先生